転生したのに0レベル
〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜
135 そうなんだ……
「おや? 大層ご機嫌のようじゃが、一体何があったのかのぉ」
思いがけない所での植物油の発見で僕が大喜びしてると、そこにロルフさんがやってきたんだ。
「あのねぇ、葡萄の油があったから喜んでるんだよ」
「おお、そう言えばルディーン君は植物の油が取れるかも知れぬと思って、あのポーションの元になるものを見つけたのじゃったのぉ」
そのロルフさんが僕に何で喜んでるのって聞いてきたから、僕はその理由を教えてあげたんだ。
そしたら白くて長いお髭をなでながら、なるほどのぉって納得したんだけど、
「しかし、まだ探しておったとは。あれから話題に上がらぬから、わしはてっきりすでに見つけた物とばかり思っておったわ」
その後すぐに、すまなさそうな顔をしてそう言ったんだ。
ロルフさんからすると自分のうちで普通に使ってるもんだから、まさかそこまで見つけられないものだなんて思ってなかったみたい。
そりゃそうだよね。だってロルフさんはお金持ちだもん。
自分でお料理をする事なんて無いだろうし、その材料を買いに行くなんて事もきっとしないはず。なら、売ってる所を見つけるのがそんなに難しいなんて知ってるわけ無いもん。
「旦那様、植物の油は露天や小さな店では取り扱って居りません。何せ製造するのに手間がかかりますから値も高く、一般的にはあまり使われていないものですから」
ノートンさんが言うには植物の油にはそれを扱う専門店があって、そこに行かないと買えないんだって。
そりゃ見つからないわけだ。だって、そんな店があることなんてまったく知らなかったんだもん。
「それにですね。一般的には油と言えば魔物や動物の脂身の事を指しますから、植物の油が存在する事さえ知らないものも多いのです。ですから、私からするとカールフェルト様がよく植物油の事をご存知だったと感心していたほどなのです」
「ほう、そうじゃったか」
そう言えばさっきストールさんもおんなじ事言ってたっけ。
ここにあったからてっきりイーノックカウでは魔物の油が手に入りにくいから、植物の油も普通に使ってるんだって思ったけど、やっぱり違うんだね。
「それでは見つけられなくてもおかしくは無いか。してルディーン君、先ほどはその植物の油が見つかった事に大層喜んでいたようじゃが、君はこの油を一体何に使うつもりなのじゃ?」
植物の油を見つけるのが大変だって解ったロルフさんだけど、今度は僕が何に使うために探してたのかが気になったみたい。
「マヨネーズを作るんだよ」
だから僕は教えてあげたんだ。だって隠す様な事じゃないからね。
「まよねーす、とな? それはなんじゃ? 前に見つけた油からはポーションを作ったようじゃが、はて? 植物の油を使ったポーションなど他に聞いた事は無かったが」
だけど聞いた事の無い名前だったからか、ロルフさんは勘違いしちゃったんだよね。
だから僕は慌てて違うよって教えてあげたんだ。
「お薬じゃないよ。えっとね、マヨネーズって言うのはお野菜とかお肉につけて食べるソースの事なんだ」
「なるほど。ポーションでは無く、食材じゃったか」
それを聞いたロルフさんはちょっと残念そう。
でも、そんなロルフさんと違ってノートンさんがその話に食いついてきたんだよね。
「その野菜や肉につけて食べる、まよねーずとやらはどのようなソースなのですか? 私も色々なソースを学んできましたが、聞いたことが無いのですが」
そっか、ノートンさんも知らないって事は、やっぱりこの世界にはマヨネーズは存在しないんだ。だったらマヨネーズを作って売ればお金持ちになれるね!
そう思ったんだけど聞かれたのに答えないのは意地悪してるみたいでヤだったから、僕は教えてあげる事にした。
「あのね。卵とワインビネガーを混ぜて、それにお塩や胡椒を入れて混ぜた物にちょっとずつ油を入れて作るソースの事なんだよ」
細かい分量は解んないけど、とりあえずこれで作れるはず。
そう思って僕はノートンさんに作り方を教えてあげたんだけど、そしたらちょっと変な顔をされちゃったんだよね。
「あの、カールフェルト様。そのワインビネガーですが、小麦やコーンなどから作られるビネガーではいけないのでしょうか?」
そしてノートンさんはその変な顔のまま、こんな事を聞いてきたんだよね。
でもそれを聞いて今度は僕がびっくりしちゃった。だってうちにはそれしか無かったからお酢と言ったらワインビネガーしか無いと思ってたんだもん。
「えっ、穀物のお酢があるの?」
「ええ。ワインビネガーより少々値は張りますが、ございます」
そっか。穀物のお酢があるなら絶対にそっちの方がいいよね。僕が知ってる作り方でも、本当は穀物のお酢を使うんだから。
「ならそっちの方がいいと思うよ。ワインビネガーだとちょっと匂いがきついもん」
「はい。多分私が考えている通りなら、そのソースには小麦等から作られたものの方が合うと思いますよ」
穀物酢があるって聞いた僕は、考えている通りのマヨネーズが作れそうだって思って嬉しくなっちゃったんだよね。
でもさ、この時ふと思っちゃったんだ。
あれ? 何でノートンさんはマヨネーズにはワインビネガーより穀物のお酢の方が合うって解ったんだろう?
だから僕はその疑問をノートンさんにそのまま聞いてみたんだ。
「呼び名が違ったので解らなかったのですが、カールフェルト様が仰られているまよねーずをいうソース。私どもの間では卵のビネガーソースと呼ばれているものと同じ物だと思うのです」
そしたらこんな答えが帰って来たんだよね。
「え〜、マヨネーズって普通にあるの!? でも僕、今まで一度も見た事無いよ」
マヨネーズって作り方さえ解ってたらそんなに難しい物じゃないし、何よりとっても美味しいからもしあったのなら広く知られてるはずなんだよね。
なのに僕は村でもこのイーノックカウの宿でも見た事が無いから、絶対に無いんだって思ってたんだ。
「なるほど、卵のビネガーソースか。それならばルディーン君が口にしたことが無いのも頷けるのぉ」
ところがノートンさんの話を聞いてロルフさんもこんな事を言い出したもんだから、びっくり。
その上、僕が食べた事が無いのは当たり前みたいに言うんだよね。
でも、なんでさ? そりゃ植物油を一般の人が知らないからってお店で料理をしてる人たちまで知らないわけ無いよね。
ならロルフさんでも知ってるくらいそのソースが有名なら、僕が食べててもおかしく無いじゃないか!
「ロルフさん、何で僕が食べた事が無くてもおかしく無いって思ったの?」
「あれは作るのが大変じゃからのぉ」
だから何で僕が食べて無いのが当たり前だって思ったの? って聞いたら、こんな答えが帰って来たんだ。
でもそれを聞いてもよく解んないんだよね。だって、マヨネーズってそんなに作るのが大変だなんて思えなかったんだもん。
そんな僕の考えてる事が解ったのか、
「カールフェルト様は作り方をご存知名だけで、実際に作るところを御覧になられた事は無いようですね」
ノートンさんがそんな事を言い出して、では実際に作ってみましょうとほかの料理人お二人に声をかけたんだ。
卵のビネガーソースを作る為にって調理台の上にいろんな道具が並べられて行ったんだけど、その中に見慣れないものがあったんだ。
「これなぁに?」
「ああ、これはソースをかき混ぜる為の道具です。多くの料理人はフォークでかき混ぜているようですが、それだとこのソースを作るのがかなり大変なので、当館ではこの様なかき混ぜる専用の道具を使用しています」
それは何かの植物の枝を束ねてその先を広げた、小さな竹ぼうきみたいな物だったんだ。
ノートンさんはその道具を手に取るとちょっと大きめなボウルに卵とお酢、それにお塩と胡椒を入れて手早くかき混ぜ始めた。
「そろそろ頼む」
「はい」
そしてある程度かき混ぜられた頃、横にいた男の人に声をかけると、その人が小さな柄杓のような物で本当にちょっとずつボウルの中に油を入れ始めたんだけど、そしたらそれと同時にノートンさんのかき回す手が物凄く早くなったんだ。
「この作業は大変じゃからのぉ。クラークも説明する余裕はなかろうて」
その様子を僕と一緒に見てたロルフさんが、ノートンさんに代わって僕に説明をしてくれたんだ。
「ルディーン君。このソースはのぉ、全てが出来上がるまでかなりの速さで長時間かき混ぜ続けねば油とその他の材料が混ざらず分離してしまうのじゃよ」
ロルフさんはそう言うと、誇らしげな目をノートンさんに向けた。
「それだけにこのソースを作れる腕とスタミナを持つ職人はそうはおらんのじゃ。じゃからこのソースの存在を知っていても口にした事がある者はあまりいないのじゃよ」
なるほど。だから僕は今までマヨネーズを食べた事が無かったんだ。
ただ、それが解るのと同時に僕はちょっと困っちゃったんだよね。
その作れる人が殆どいないって言うマヨネーズ、魔道泡だて器があれば僕でも作れちゃうんだよなぁ。
自分の料理人がとっても凄いんだよって誇らしそうな顔をしてるロルフさんに、僕はその話をしてもいいのか解んなかったんだ。
マヨネーズ、実はこの世界にもあったんですよ。
と言う訳で連載当初からのルディーン君の野望であった、マヨネーズ作りの知識チートで金持ち大作戦は泡と消えてしまいましたw
まぁ本人が自覚して無いだけで、知識チートっぽい事はすでにしてるんですけどね。